8年前のこと。
シャンプーしたばかりなのに、髪を乾かしているそばから白い粉のようなものが落ちてきた。
ドライヤーの風で肩がうっすら白くなる。
「なんかおかしいな」と思いながらも、最初は気のせいだと思っていた。
でも違った。
乾かしている最中にフケが出るなんて、どう考えても変だった。
皮膚科に行くと「脂漏性皮膚炎ですね」と言われた。
頭皮用の薬と、顔に塗る薬を処方された。
頭皮用は目薬のような小さな容器で、チョンチョンと塗ってから揉み込むタイプ。
それを使うと、ぴたりと止まった。
あの安心感は今でも覚えている。
ただ、続かなかった。
髪が伸びてくると、薬が頭皮まで届いているのか分からなくなる。
揉んでも広がらない気がして、だんだん塗らなくなった。
顔の薬は真面目に使っていたけれど、頭皮は中途半端。
気づけばやめていた。
その後、いつの間にかまた戻った。
医者に行ってもダメだったと思い込み、今度はシャンプーを疑った。
安いものが悪いのではないか。
洗い方が悪いのではないか。
乾燥肌用、脂性肌用、少し高めのもの、定期購入のセット商品。
いろいろ試した。
最初は効いた気がする。
でも、しばらくすると元に戻る。
最後は機械に頼った。
ヘッドスパのような電動ブラシ。
これがとにかく気持ちよかった。
自動で止まるまでを2周使っていた。
説明書には「1回でやめてください」と書いてあった気もする。
でも、物足りなくてもう1回やっていた。
そうすると、フケが出ない日がある。
「これだ」と思った。
でも鏡を見ると、頭皮は真っ赤だった。
効いているのか、削っているだけなのか、自分でも分からなかった。
その頃は、かさぶたを剥がすのもやめられなかった。
家では「どうせ落ちてもいい」と思い、意識的に剥がしていた。
綺麗に形のまま取れると、妙にスッキリする。
一つ取ると、次を探してしまう。
外では帽子をかぶっていた。
無意識に触らないためだ。
でも、帽子から出ている襟足は触れてしまう。
結局、完全には止められなかった。
ある朝、顔から透明な汁のようなものが出ていた。
触っていないのに、うっすら血が滲んでいる。
ヒリヒリする。
「これはさすがにまずい」と思い、8年ぶりに同じ医者へ行った。
診察室に入ると、「8年ぶりですね」と言われた。
「よくこの状態で過ごせましたね」とも。
話を聞いた先生は、前回と少し違う可能性を示した。
「尋常性乾癬の疑いがあります」
似ているが、治療法が違うらしい。
去年、新しい薬が出たとのことだった。
試してみると、驚くほど早く効いた。
2日目には赤みが引き、ボロボロと剥けていた皮も落ち着いた。
会社の人にも「治まったね」と言われた。
正直、拍子抜けした。
あんなに迷走していたのに。
尋常性乾癬はすぐ治るものではないらしい。
「赤みが出たらすぐ使ってください」と言われている。
今も、少し怪しいと感じたら迷わず塗る。
電動ブラシも今は使っている。
ただし1回だけ。
自動で止まるところまで、それ以上はやらない。
ドライヤーをしても、肩が真っ白になることはもうない。
ポロポロ落ちる日があっても、昔ほどではない。
今でも安いシャンプーには戻していない。
戻ったらどうしよう、という怖さがある。
理屈では大丈夫だと思っている。
ビジネスホテルのシャンプーを使っても問題なかったから。
でも、自分で買うとなると手が伸びない。
あの頃の記憶が、まだ少し残っている。
もし、あの時の自分に言えるなら。
シャンプーを変える前に、
機械を2周する前に、
かさぶたを剥がし続ける前に、
一度、ちゃんと医者に行け。
それだけでよかった。
コメント